黒川温泉宿泊拒否問題で分かったこと
事務局長 大里 恵
今、障害者とその関係者が一番注目しているのは、「支援費」の財源が確保できるかどうかだと思う。しかし、熊本で起きたハンセン氏病快復者の人たちの宿泊拒否事件を、障害者問題の最優先課題として考えないと、支援費問題をいくら語っても無意味だといったら乱暴だろうか。また、このような問題が起きたときに、社団法人という社会的に責任を持った全国脊髄損傷者連合会が、抗議のメッセージを関係機関に送るべきではなかっただろうか。そのアクションがなかったのが、一会員として大変残念だ。
新聞等を見て、事件のいきさつをご存じの方もおられると思うが、脊髄損傷者連合会の会員の中には、他人事と思えないと、憤りを感じている方もおられると思う。今回の事件は、弱い者を切り捨てていく意識、自分と異なる者を排除・抹殺する意識、いわゆる「優生思想」という永遠の課題(見て見ぬふりをしていた実状)に、光(見て見ぬふりできない状況)が当たったような気がする。
ハンセン氏病快復者の人たちが起こした裁判に、国は敗訴し控訴しなかった。つまり罪を認めた出来事は、歴史を変えたともいえる。しかし、なぜそこに到ったかを知る人は少ないし、そのような状況に追い込んだ責任の一部が、見て見ぬふりをしてきた、無責任な私たちにもあることに、気付く人は少ない。数年前にも銭湯にハンセン氏病快復者の人たちが、入浴しようとして拒否された事件があった。その時にも社会問題になったはずなのに、相変わらず分かっていない、というより無知過ぎる。その無知がどんなに弱い立場の人たちを苦しめているか、知るべきである。
今回、最も残念なのは、ホテルへの抗議の電話は6割で、残り4割はホテルに賛同する電話だったということだ。また、ホテルの経営者は最後まで、『宿泊拒否はホテル業として当然の判断であった』 といっている。その理由は熊本県が最初にハンセン氏病快復者だとはいわなかったからだという。ある新聞の社説で、「では、元結核患者は宿泊する際、いちいち元結核患者といって宿泊の許可を得るのか。」と書いてあった。私も同感であった。大変わかりやすいので、掲載させてもらったが、ホテル側はあの発言により、さらなる無知と差別意識を露呈したといえる。
これが、社会一般の常識である。ノーマライゼーションとか叫ばれているが、心の中では自分より劣っている者、変わっている者は排除すべきという考えが、一般社会に根強くあることを浮き彫りにした。脊損の関係者の方で、街へ出てジロジロ見られ、いやな顔や態度をされた経験をお持ちの方も少なくないと思う。そのことは今回の事件と根底で繋がっているのです。そのような誤った認識(差別感)や価値観を変えていくためにも、脊損連合会は今後も啓発活動を続けていかなければならないと思う。
最後に、支援費制度で外出が自由に出来るようになったとしても、重度障害者だから、あるいは奇声を発し何をするか分からないからと、いろんな所や場面で拒まれることがあるかもしれない。そこで、そのような認識しか持ち得ない社会で、支援費制度を利用するより、いろんな人を受け入れる社会で支援費制度を利用した方が、100倍使い勝手の良い支援費制度ではなかろうか。そのために私たちが最優先課題としてすべきことを、改めて考えさせられた事件のような気がする。
2003年12月3日(水)
(広報誌『わだち』No.122より)
<関連リンク>
「熊本県」・ホームページ
ハンセン病快復者への宿泊拒否について
ハンセン病問題への取組み
ホテルを経営する化粧品会社「アイスター」ホームページ
「アイレディース宮殿黒川温泉ホテル」ホームページ
アイレディース宮殿 黒川温泉ホテルの宿泊問題に関するご報告
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